去年の秋、俺は3年ぶりに健康診断を受けた。
それまでの3年間、健診を受けていなかった理由は、はっきりとは説明できない。「会社の指定する健診日に休めなかった」「予約するのが面倒だった」「結果を聞くのが怖かった」。そういう小さな言い訳が、3年分積み重なっていた。
きっかけは大したことじゃない。職場で同期だった男が43歳で脳梗塞で倒れた。半身に麻痺が残って、休職中だという話を別の同僚から聞いた。
その夜、ハイツ・サンシャインの201号室で缶ビールを飲みながらふと思った。「俺、最後にいつ血圧を測ったっけ」。思い出せなかった。
健康診断を「受けていない」独身男は世の中に山ほどいる。たぶんこの記事を読んでいるあんたも、その一人だ。だから今日は「行かない理由」を一つずつ潰していく。
- 健診を受けたいが、何から始めればいいか分からない
- 会社で健診がない非正規・フリーランスでも受けられる方法を知りたい
- できるだけ金をかけずに、最低限の身体チェックをしたい
なぜ独身男は、健康診断から逃げ続けるのか
そもそも、なぜ俺たちは健診から逃げるのか。
「忙しいから」じゃない。「金がないから」でもない。本当の理由はもっと別のところにある。
結果を聞いてくれる人間がいないからだ。
既婚者は健診結果を妻に見せる。「血圧が高めだったよ」「肝臓の数値、去年より悪い」。そういう会話がある。そこには自分の身体を気にかけてくれる他人の存在がある。
俺たちにはそれがない。健診を受けても、結果を一人で開封して、一人で「ふーん」と眺めて、一人で引き出しにしまう。それだけだ。だったら最初から受けなくていいや、という諦観が心のどこかにある。
これは弱さじゃない。独身男特有の構造的な問題だ。だがその諦観に流されると、40代で確実に痛い目を見る。俺はそれを同期の男で目撃した。
「行かない理由」を、一つずつ潰していく
理由1:「金がない」
健康診断は高い、というイメージがある。確かに人間ドックをフルセットで受ければ3万〜5万円する。だが俺たちが受けるべきなのは人間ドックじゃない。
40歳以上なら、自治体の「特定健診」がほぼ無料か数百円で受けられる。
これは国民健康保険に加入している人間が対象で、住んでいる市区町村のホームページで「特定健診」と検索すれば、受診できる医療機関のリストが出てくる。検査項目は、身長・体重・腹囲・血圧・血液検査(脂質・血糖・肝機能)・尿検査。生活習慣病の初期兆候を拾うには十分すぎる内容だ。
俺の自治体の場合、自己負担は500円だった。ワンコインで自分の身体の主要なデータが全部分かる。
「40歳未満で対象外」の場合も諦めるな。自治体によっては30代向けの「若年健診」を独自に設けているところがある。1,000〜3,000円程度で受けられる。これも自治体のサイトで「若年健診」「30代 健診」と検索すれば出てくる。
理由2:「会社で受けさせてもらえない」
非正規雇用や個人事業主、フリーランスの独身男にとって、「会社の健診」は存在しない。労働安全衛生法では正社員と同程度働く非正規にも健診を実施する義務があるが、現場では平気で無視されている。
戦う気力があれば労基に駆け込めばいい。だが俺たちにそんなエネルギーは残っていない。なら自分で受けに行くしかない。
繰り返すが、国民健康保険に加入していれば、自治体の特定健診(40歳以上)が使える。社会保険の被扶養者でも、加入している健康保険組合が「生活習慣病予防健診」を補助しているケースが多い。健康保険証に書いてある保険者の名前で検索すれば、補助内容が出てくる。
理由3:「予約や手続きが面倒」
これは正直、俺もそうだった。健診の予約は平日昼間に電話しなきゃいけないし、書類を取り寄せたりするのも億劫だ。
だが手順を整理すると、実はたった3ステップで終わる。
まず、自治体から送られてくる「特定健診の受診券」を探す。だいたい毎年5〜6月頃、国保加入者の自宅に届く。捨てた記憶があるなら、自治体の国保課に電話して再発行を頼めばいい。次に受診券に書いてある医療機関リストから、家か職場の近所の内科を選ぶ。最後に電話で「特定健診を受けたい」と伝えて予約する。だいたい1〜2週間先で予約が取れる。
これだけだ。所要時間は電話を含めて30分もかからない。
理由4:「結果を聞くのが怖い」
これが、たぶん一番大きい理由だ。俺もそうだった。「何か悪い数値が出たらどうしよう」。そう思って検査自体を回避する。
だが冷静に考えてほしい。悪い数値が出るかどうかと、健診を受けるかどうかは、無関係だ。あんたの身体の中の数値は、健診を受けようと受けまいと、すでにそこにある。受けないってのは、「気づかないふりをする」ってことでしかない。
そして気づかないまま進行したものは、ある日突然、救急車で運ばれる形で現れる。俺の同期の男のように。
健診を受けて悪い数値が出たなら、それは「不幸」じゃなくて「情報」だ。情報があれば対策できる。情報がなければ、ただ殴られるのを待つしかない。
ワンコイン健診・郵送検査キットという、もう一つの選択肢
「自治体の健診はハードルが高い」「医療機関に行くのも面倒」という人間には、もう一つ手段がある。
街中で見かける「ワンコイン健診」だ。500〜3,000円程度で、血圧・血糖・コレステロールなどの簡易検査をショッピングモールやドラッグストアの一角で受けられる。予約不要のところが多くて、所要時間は15分程度。
さらに最近は郵送式の検査キットもある。Amazonや楽天で4,000〜8,000円程度で買える。自宅で指先から少量の血液を採取して返送するだけ。1週間後に結果が郵送かWebで届く。生活習慣病、肝機能、男性更年期(テストステロン)まで、目的別に色々な種類がある。
俺が試したのは生活習慣病の基本セット。自治体の健診の補助として、使ってみるのもよいだろう。
まるごと健診チェッカー(簡単採血キット)
これは自治体の健診の代替にはならない。だが「とりあえず今の自分の数値を、一回見てみたい」というハードルを越えるには十分な選択肢だ。
結論:「健診を受けない自由」は、「自分の死期を早める自由」だ
俺は3年ぶりに受けた健診で、γ-GTP(肝臓の数値)が基準値の少し上に出た。LDLコレステロールもぎりぎり要観察ラインだった。
ショックではなかった。むしろ「ああ、やっぱりな」と思った。週末にしか自炊しない、運動不足、缶ビールを毎日一本。そういう生活を3年続けていれば当然そうなる。
だがその数値を「知っている」のと「知らない」のとでは、その後の生活が全く違う。俺はそれから休日の散歩を30分から45分に伸ばした。缶ビールを週に5本までに減らした。それだけで翌年の健診で数値は基準内に戻った。
500円のワンコインと半日の時間。それだけで自分の身体の現在地が分かる。
健診を受けない自由は確かにある。誰も俺たちを叱らない。誰も心配しない。受けなくても明日の朝は普通に来る。
だがそれは「自分の死期を、自分で早める自由」でもある。
俺たち独身男には、看病してくれる妻も心配してくれる子供もいない。だからこそ、自分の身体のデータくらいは自分で握っておくしかない。
まあ、仕方ない。それが独身男の生存戦略だ。
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