夜中の三時、また目が覚めた。胸のあたりが軽く焼けている。逆流性食道炎のせいか、それとも布団に入る前にぼんやり眺めていた「老後資金2000万円問題」の記事のせいか。たぶん両方だ。
手取り20万円。ボーナスは寸志程度。家賃を払って食費を払って、わずかな娯楽費を引いたら、月に貯金できるのは良くて3万円。この生活をあと27年続けて、ようやく定年。そこから先の20年か30年を、俺はどうやって生きるのか。
世の中の「老後特集」を読んでいると、いつも違和感がある。前提が夫婦二人で持ち家で、退職金が2000万円出る人間の話なんだ。俺たち独身・低年収男性は、最初から計算式の外に置かれている。
なら自分で計算するしかない。希望的観測は一切抜きで、ただ淡々と。これはその記録だ。
- 手取り20万の独身男性が現実的に老後を迎えられるのか知りたい
- 世間で言われる「老後2000万円問題」が自分にも当てはまるのか整理したい
- 絶望ではなく具体的に「これから何をすべきか」の出発点を知りたい
「老後」って言葉は、誰のためのものなのか
「老後」という言葉を、最近、信じられなくなった。
テレビや雑誌で語られる老後は、たいてい退職金を握りしめた夫婦が温泉に行ったり、孫と公園で遊んだりしている。あれは昭和から平成にかけて、終身雇用と年功序列の恩恵をたっぷり受けた世代の話だ。彼らの息子や娘である団塊ジュニア以降の独身・非正規・低年収の男たちは、あの絵の中に入っていない。最初から、いない。
俺は38歳。今の会社に正社員として滑り込めたのが30歳の時で、それまでは派遣と契約社員を転々としていた。厚生年金の加入歴をフルで計算しても、せいぜい20年ちょっとにしかならない。これが何を意味するか。俺がもらえる年金は、平均的な男性会社員より確実に少ないってことだ。
ねんきん定期便を、覚悟して開けてみた
去年、誕生月に届いたねんきん定期便を、しばらく封筒のまま放置していた。開けるのが怖かった。だがいつか向き合わねばならない。缶ビールを開けて、覚悟を決めて中身を見た。
予想される受給額は、月額にして約11万円。
家賃5万8000円を払ったら、残りは5万円ちょっと。これで食費、光熱費、通信費、医療費、雑費の全てを賄うのか。生活保護費の水準とほぼ変わらない。いや、それより低いかもしれない。
これが現実だ。「老後2000万円問題」どころじゃない。俺たちは毎月の収支が赤字になる前提でスタートしなきゃならない。笑える。いや、笑えない。
そもそも、いくら必要なのか
総務省の家計調査によれば、単身高齢者の平均的な支出は月に約15万円前後らしい。受給見込みが11万円なら、月に4万円の不足。年間で48万円。65歳から85歳まで生きるとして、20年で約960万円の赤字になる計算だ。
仮に90歳まで生きてしまえば1200万円。これが俺たち独身・低年収男性にとっての、リアルな「老後必要資金」のミニマムラインだ。世間が言う2000万円という数字は夫婦の話、あるいは「もう少し人間らしい生活がしたい人」の話。俺たちはまず、960万円から1200万円をなんとか用意できるかどうか、という地点に立たされている。スタートラインですらない。スタートラインに立つための、参加費だ。
何をすべきか ― 三つの「撤退戦」の準備
希望は語らない。代わりに具体的にやるべきことを三つだけ書く。
ひとつ目:固定費の徹底的な圧縮
家賃、通信費、保険料。この三つが人生を圧迫する三大コストだ。俺は格安SIMに乗り換えて、月の通信費を1500円台にした。生命保険は独身で扶養家族がいない以上ほぼ不要だと判断して解約した。死亡保障に毎月5000円払うくらいなら、その金を投資に回すほうが遥かに合理的だ。誰のために遺すんだ、という話でもある。
ふたつ目:新NISAでの、地味で長い積立
月3万円を全世界株式のインデックスファンドに淡々と入れ続ける。これを30歳から始めていれば理想だったが、38歳の今からでも遅くはない。65歳までの27年間、年利5%で複利運用できれば、元本約970万円が計算上は2000万円を超える可能性がある。期待じゃない。確率の話だ。
証券口座はSBI証券か楽天証券のどちらかで開けばまず間違いない。手数料が業界最低水準で、つみたて投資枠の商品ラインナップも揃っている。俺はSBI証券を使っている。理由は特にない。先に開いただけだ。
★
みっつ目:働き続ける覚悟
これが一番重要かもしれない。65歳でリタイアして悠々自適、なんてシナリオは俺たちには存在しない。70歳まで、可能なら75歳まで、何らかの形で働き続ける。それを前提に健康と最低限のスキルを維持しておく。逆流性食道炎を抱えたこの身体を、これ以上壊さないように酒と暴飲暴食を控える。それも立派な老後対策だ。情けない話だが、事実だ。
「老後」は存在する。ただし別の名前で
結局、俺たち独身・低年収男性にとって「優雅な老後」は存在しない。あれは別の階層の人間が使う言葉だ。羨むだけ無駄なんで、最初から見ないことにしている。
だが「生き延びるための老後」は設計できる。それは希望に満ちた第二の人生じゃなくて、最後まで自分の足で立って、誰にも迷惑をかけずに静かに退場するための、撤退戦の期間だ。
俺たちにとって、それはどういう意味を持つのか。
それは今日この瞬間から、家計簿を開いて、ねんきん定期便を直視して、証券口座を開設するっていう、地味で面白くもなんともない行動を淡々と始めるってことだ。誰も褒めてくれない。誰も応援してくれない。それでもやる。
なぜなら、夜中の三時に動悸で目が覚めるあの恐怖は、行動することでしか和らげられないからだ。
まあ、仕方ない。やるしかない。
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