固定費削減を3年やった。格安SIMに変えて、保険を解約して、サブスクを整理して、家賃の安い部屋に引っ越した。気がついたら月13万円で生きるようになってた。
そしてある日、気づいた。もう、削れない。
正確に言うと、削ろうと思えばまだ削れる項目はある。だが削ろうとするたびに何かが軋む音がする。生活の質が、時間が、健康が。削れば削るほど、得られる金額に対して失うものが大きくなっていく。
今回はその話だ。固定費削減には限界がある。その限界を見極めずに削り続けると、人生そのものが摩耗していく。俺はそれをやりかけた。これはその記録だ。
- 一通りの固定費削減はやったが、それでも貯金が増えなくて行き詰まっている
- 「これ以上、何を削ればいいのか」分からなくなっている
- 削減の先に何を目指せばいいのか、戦略が見えなくなっている
固定費削減の「3つの壁」
固定費削減をやっていくとある時点で必ず壁にぶつかる。俺の経験では壁は3種類ある。
ひとつ目、生活の質の壁。家賃を下げるために駅徒歩30分の物件まで動かしたら通勤が地獄になる。食費を月1万円台まで削ったら平日の夕食が虚しくなる。エアコンを我慢したら夏に体調を崩す。一定のラインを超えると、削った金額より失った生活の質のほうが大きくなる。
ふたつ目、時間コストの壁。電力会社を比較して切り替えるのは1回で終わるが、毎月「今月はどこの電気が安いか」を調べ続けるのは無駄だ。スーパーをハシゴして10円安い卵を買うために30分歩くのも無駄だ。時間も俺たちの貴重な資源だ。時給換算して割に合わない節約は、やってる意味がない。
みっつ目、健康の壁。これが一番怖い。食費を削って栄養が偏れば、数年後に医療費で倍返しされる。光熱費を削って冬に風邪をひけば、仕事を休んで収入が減る。健康は最大の固定資産だ。ここを削るのは固定費削減じゃなくて、ただの自傷行為だ。
この3つの壁にぶつかったら、削減ゲームは降りていい。むしろ降りるべきだ。
俺がやって「やらなきゃよかった」と思った節約
恥を晒す。固定費削減に夢中になってた時期、俺がやって失敗した節約をいくつか書いておく。同じ失敗を戦友にしてほしくないからだ。
ひとつ。激安スーパーへの遠征。家から自転車で20分のところに激安スーパーがあった。週末にそこまで通って食費を月2000円浮かせた。だが往復40分の自転車移動と、重い荷物を抱えて帰る労力を計算したら、時給換算で500円もない。しかも夏は熱中症寸前。1年でやめた。何やってんだ俺は、と本気で思った。
ふたつ。ティッシュをトイレットペーパーで代用。一時期、ティッシュを買わずにトイレットペーパーで鼻をかんでた。月200円くらい浮く。だが鼻の皮膚が荒れて軟膏代がかさんだ。完全な意味のない節約だった。
みっつ。冬の暖房を限界まで我慢。電気代を削ろうとして、室温が10度を切る部屋でダウンを着込んで過ごした冬がある。風邪を3回ひいた。市販薬代と病院代で、節約した電気代を完全に上回った。バカみたいな話だが本当の話だ。
これらの失敗から学んだのは、「削れるかどうか」と「削るべきかどうか」は別の問題ってことだ。削れるからといって削っていいわけじゃない。
限界の見極め方 ― 時給換算という物差し
じゃあどこが「削るべきライン」と「削っちゃいけないライン」の境目なのか。
俺が使ってる物差しは時給換算だ。
その節約に何時間かかるか。それで月にいくら浮くか。割り算して、自分の時給より低かったらやめる。俺の時給は約1500円。だから時給1500円を下回る節約は、原則やらない。
例えば格安SIMへの乗り換え。手続きに3時間かかるとして月5500円浮く。年間6万6000円。3時間で6万6000円なら時給2万2000円。やる価値がある。これは即座にやるべきだ。
例えば毎週のチラシ比較。週1時間かけて月500円浮く。年6000円。年52時間で6000円なら時給115円。論外だ。やってはいけない。
この物差しを当てると、世の中の節約術のほとんどは「やってはいけない」ものだと分かる。節約の本やブログに書いてある手法の大半は、書いた人間の時給が低いから成立してるだけだ。冷たい言い方だが、これが現実だ。
削減の限界に達したら、次にやるべき二つのこと
固定費を削り尽くして、もう削れないと気づいたら、選択肢は二つしかない。
ひとつ目、収入を増やす。これは正攻法だ。残業を増やす、転職する、副業する、スキルアップして昇給を狙う。手段はいろいろある。だが俺たち低年収独身男にとって、これは簡単な話じゃない。コンタクトセンターのオペレーターから急に年収500万に飛ぶ方法は存在しない。あれば俺が知りたい。
それでも月5000円でいい。月1万円でいい。収入の柱を一本増やすことには大きな意味がある。クラウドソーシングで月数千円稼ぐ、ポイ活で月数千円稼ぐ、不要品をメルカリで売って数万円稼ぐ。地味だが、削減の限界を突破する唯一の方法だ。
★
ふたつ目、今の生活水準を「固定する技術」を磨く。これが俺が今、力を入れてる戦略だ。
考えてみてほしい。月13万円で生きられる人間は、月13万円稼げる限りどこでも生き延びられる。50歳でリストラされても、60歳で病気をしても、年金が削られても、生存の最低ラインは確保される。
「少ない金で満足できる体質」は、何よりも強い資産だ。これは一朝一夕では身につかない。何年もかけて自分の生活を絞り込んだ人間だけが手に入れられる、生涯失われない技術だ。
固定費削減ゲームを降りた俺がやってるのは、削減じゃなくて「固定」だ。今の月13万円の生活水準をなるべく長く、なるべく無理なく維持する。これが今の戦略になってる。

削減の限界を見極めるための三つの問い
固定費削減に行き詰まったら、自分にこう問い直してみるといい。
ひとつ。「この節約は時給換算でいくらか」。1500円を下回るならやめる。お前の時給を計算して、そのラインを基準にしろ。
ふたつ。「この節約で失っているのは金以外に何か」。時間か、健康か、生活の質か。失っているものが得ている金額より大きいなら撤退する。
みっつ。「削減の先に次のステージがあるか」。削減はゴールじゃない。土台だ。土台が固まったなら、次のステージ(収入を増やす/生活水準を固定する技術を磨く)に進む準備をしろ。
『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス)
節約一辺倒の人生観に揺さぶりをかける本。たまにはこういう本も読んだほうがいい
俺たちにとって、それはどういう意味を持つのか
固定費削減は重要だ。だがそれは人生の目的じゃない。
俺は3年間、固定費を削ることに夢中になってた時期がある。今月いくら浮いたかをエクセルに記録して、前月比でグラフを作って、一人でニヤニヤしてた。あれは病気の一種だったと、今なら分かる。
削ることが目的になると、削れない自分を責めるようになる。これは精神衛生上、最悪のループだ。夜中の三時に動悸で目覚めて、「今月もう少し削れたんじゃないか」と自分を責める。そんな人生に何の意味があるんだ。
固定費削減には限界がある。その限界を認めてゲームを降りていい。降りた先には二つの道がある。収入を増やす道と、今の生活を固定する技術を磨く道。どちらでもいい。お前に合うほうを選べ。
俺は後者を選んだ。月13万円で機嫌よく生きられる体質を磨く。派手じゃないが、たぶん俺にとっては正解だ。
削減は手段だ。生き延びることが目的だ。手段に殺されるな。
まあ、削るのに疲れたら一度立ち止まっていい。立ち止まっても誰も困らない。少なくとも俺は困らない。
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